The Winner Takes It All

その幾何学的なビルの影を縫うように走る通勤電車に乗り込んだ彼は
都会の夕景を楽しむまでもなく、いつもの車窓から
見慣れた景色をぼんやりと瞳に映した。
 
にもかかわらず違和感を感じたのは
あるビルとビルの間に垣間見えた瓦礫の町だった。
 
あんなところがあっただろうか?
いや、仕事で疲れた脳がテレビや映画の映像でも思い出して
勘違いしたのだろう。
 
そのときは彼はそう思って乗り換えの駅で降りた。
 
それから数日して同じような時間にそのビルとビルの間を垣間見ると
そこはやはり夕焼けの瓦礫の町だった。
 
ほんの一瞬だったが、男が何かを叫んでいるようだった。
力強く拳を握り締め、空にその腕を掲げて大声で何かを叫んでいる。
 
彼は次の駅で降りてそのビルまで歩いて戻ることにした。
20分ほど国道を歩くとそのビルはあった。
 
たしかに高架を通る電車から見えたビルはここだったが
普通の交差点でしかない。
ああ疲れてたんだなぁ。と彼も自分の行動に少し苦笑して駅まで戻ることにした。
 
その夜、彼は夢をみた。
 
あの瓦礫の町で男は、油と汗に塗れ、拳を握り、両手を空に掲げて
ぶつけることができない怒りに震え、目は血走り、喉が避けんばかりに...
 
そして、その男こそが自分なのだと
戦い続ける自分の姿なのだと
彼は気づいた。