空蝉

夏祭りに行くのなら浴衣に袖を通したいと言うので
夕立の合間、玄関先で彼女の身支度を待つ。
 
裕福でもなく貧乏でもなく、潮汐を重ね
当たり前のように現世に委ねる生活に
わずかな疑問を抱くこともなくないが

この数年はとくにお互いを見つめるまもなく
過ごしてしまったような気がして惜しい。
 
半時も待ちわびて、近所の子供達がそぞろ外で
たむろいはじめると
 
紺と浅黄を身にまとい、テレながらでてきた彼女の笑顔は
葛藤の殊勲を褒美にあげたいくらいの瑞々しさ
 
夕立も去り、蝉もまた想いのままに鳴き響む。