あんた こんなもん背中いれたら
堅気にゃ戻れんよと
初老の彫師が独り言のようにつぶやく
男はだまってそれを聞き流す
お湯が沸いたのか台所のほうからカタカタと
ヤカンの蓋が踊る
10月というのに今日はよく冷える
空にはツンとした細い月が昇る
男は腕のいい彫師に頼み込んで
ようやく承諾をもらった
多少の問題はなんとかなると
男は目をつぶる
まぶたの裏にはパパと自分を呼ぶ娘たちの姿が
思い浮かぶ。ゴーンと古い柱時計が時を知らせる。
すっかりと日が暮れた部屋で男はようやく解放された
あんた 子供さん思いだな
彫師は仕事道具を片付けながらまた
独り言のようにつぶやいた
男は煙草を取り出し一服しながら硝子に映る背中を見た
ピカチュウ〜
たしかそんな名だったなぁ。
男は紫煙を燻らせた。