もう 顔も覚えてないのに、彼女の華奢な白い背中を覚えている。
長い髪と薄い肩甲骨が よけいに細さを強調してたのかもしれない。
触れることも躊躇うくらい静かな時間がながれていた。
ずっと忘れていた記憶
奇遇にも地方都市で彼は彼女に再会した。昔の愛称で呼び止められた。
その愛称を使うのは彼女だけだった。
振り向くと そこには
幸せそうにコロコロ太った中年女性が笑顔で立ってた。
買い物籠を抱え、つないだ手には小さな男の子がいる。
明るく大きな声で僕の背中をたたく掌も厚い。
バシッ!
ずいぶん遠い記憶の話になってしまったなぁ。
彼はこの奇遇を少し恨んだ。