生誕前夜

先が見通せないものを人は作ってはいけない

遺伝子組み換えの研究に手を染めていた彼女は
偶然にもその新しい仕組みを得ることができた
マウスでは何度も成功している

その好奇心は次のステップを要求していた
風邪くらいなら小さな邪気で済むではないか。
その時、彼女の周りに神はいなかった。

広めて確認するには人の行き来を利用すればいいと
隣の悪魔がささやいた

まだ夜はあけてない
暗闇の中で人々は待っている

コンピュータウィルスのごとく
一次感染に使われたウィルスは人の免疫を
押さえ、二次感染用のバックドアを開く

遺伝子組み換えを目的する次のウィルスは
そこから入り込み人類の遺伝子を書き換える

彼女がホームで旅客に紛れ込んで
始発を待つとき、太陽が昇り始めた

冷たくなったカップコーヒーを持つ腕を
男たちに掴まれたとき
その計画が頓挫したことを知った。

すーっと肺に冷たい冬の空気を流し込む
じんと涙がこぼれそうになる
まだ生きてる 彼女はそう思った

神は見放さなかった